買い物中
「今日はお前の食いたいモン作ってやるよ」
「うーんとね、肉!」
「肉っつっても色々あるだろ、何がいい?」
「じゃあ牛角煮で!」
「了解、レジ行ってくるからお前先に出とけ」
「いい、着いてく」

レジにて
ピタ
「そんなにくっついたら金払えねーよ、人の目とかもあるし…」
大河は名残惜しそうに、それでも服の端っこを掴む。
「このバカップルが…」
レジのおばちゃんの冷たい視線をかいくぐりつつ、店を出る。

料理中

カランコロン
スーパーで買った飴玉をなめつつ、大河は居間から竜児を眺めている。
「お前菓子ばっか食うなよ、もうすぐ飯だぞ」
「最後の一個!」
「しゃーねーな、まったく」
トントントン
リズミカルに味噌汁&湯豆腐用のネギを刻みつつ、不意に静かになった大河に気付く。
「?…うわっ!」

ピタ

いつの間にか真後ろで竜児を見上げていた大河が、竜児の腰に手を回してくる。
顔をすりすりとこすり付け、ふやけた表情をしている。
「びっくりした!なあ、なんでそんなにくっつくんだ?」
「いいじゃない、邪魔してるわけじゃないんだし。それに、人の目も…ないんだし」
「い、いや、危なっかしいんだよ、火使ってるし、包丁とかあるし」
「うるさい!そんなに言うならもっとくっついてあげるわよ。ていっ!」
大河が竜児によじ登ってくる。

「お前はセミか!」
「じゃあアンタは樹ね」
思わず食器を放し、両手で大河を抱きかかえる。
向かい合って抱き合う形となり、大河と竜児の顔が同じ高さにくる。
互いの視線が交わり、彷徨う。
瞬間、大河の頬がほんのり朱に染まったかと思うと、
「がんばってる竜児にごほーび!」
チュ
「んむっ、あ、甘」
「そ、その飴を活力に、おおおおいしい角煮を作るのよ」
「お前が樹液だったのか…」
「そそそういうことになるわね」
大河は顔を真っ赤にして、竜児の肩に頭を預けてくる。
(恥ずかしいなら最初からやるなよ…でもお前がその気なら)

「大河、こっち向け」
「なに、んぐっ、んっんっ、ぷはぁ」
「俺jはお前の樹でいいよ」
「っ!!」
再び大河の口へと飴玉を戻した竜児は、そっと大河を下ろす。
今すぐにでも爆発するんじゃないかと思うぐらい真っ赤になった大河は、
フラフラと居間へ戻り、畳に倒れ込んだ。

そんな大河を見て、竜児の顔に笑みが浮かぶ。
今日の角煮はいつもよりずっとトロトロで甘甘になりそうだ。
大河の喜んでいる顔が目に浮かぶ。

もう飴玉のない口の中には、まだ少し、大河の味が残っているようだった。


おわり



作品一覧ページに戻る   TOPにもどる
inserted by FC2 system