曇天の暗幕から生まれたとは思えないほどの、神秘的な純白。
それを映して流れた涙は、惜別の色に染まっていた。


『こころにつもる雪』


そこかしこに、無数に宙を舞う白い蛍は、涙の浮かんだ目には滲んで見えて、あたかも万華鏡の世界に迷い込んだ錯覚を思わせた。
その幻想的な望景は、あまりにも綺麗過ぎて、思わず憧憬を持って願わずにはいられなかった。
この降り積もる雪が、心の中にも降ってください、と。
降って積もって見えなくなって、真っ白な世界にして、と。
自分の内に潜んでいた、この身勝手で、恥知らずな感情を、覆い隠して見えなくして欲しいと、祈らずにはいられなかった。
告白にいく竜児を見て、初めて気付いた自らの感情を・・・。
お願い。
誰でもいいから、願いを聞き届けて。
たとえそれが・・・誤魔化しだと分かり切っていても。
塗り込められた思いが、決して消え去るものでないと、気付いていたとしても。
見せ掛けだけの純白は、いつか溶けさって・・・また想いを露にするのだとしても。
せめて今だけは。
もう少しだけは。
竜児の傍で微笑ませて。
竜児の気持ちがどこを向いていようと、誰に向けられていようと、笑えるだけの力をちょうだい。
そいすれば、私は一友人として、竜児の傍にずっと・・・ずっといられるから。
それだけで満足できるように努力するから。
今はまだ無理だけど、いつかきっと、心から笑うつもりだから。
だからお願い。
この心を白く塗りこめて。

『大好きだよ・・・竜児』

この気持ちごと、深い雪の中に埋もれさせてください・・・。

お願いします―――。 





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