「竜児っ……!りゅう――ッ」
「うおっ!」
エントランスから外に駆け出たところで、何やらずんぐりむっくりしたモノにぶつかった。
脅威の脚力を持つ手乗りタイガーが全速で突っ込んで来たのだから、言うまでもなく両者はもんどり打って倒れ――――
「――ってて……何してんだよ、大河」
一足早く起き上がった人面熊……もとい、着ぐるみ姿の高須竜児は、歩道でしたたかに打ちつけた後頭部を抑えながら恨めしそうに声を上げた。
「りゅう……じ……?」
きょとんとして顔を上げる大河、その体たらくに竜児はぎょっとする。
「……なんだ……その、格好は」
十二月の寒い夜に、薄着、それも腕も脚をもほとんど露出している服装。
これに関しては先程まで着ていた服なのだから、「緊急の要件で急いで出てきた」と言うのなら納得出来ないことも無い。
しかし傷だらけの裸足、加えて酷い泣きっ面。
いつものドジと泣き虫で済ますには無理がある。
「……」
竜児の問いも耳に届いていないのか、大河は呆けた表情で見上げるだけ。
黙ったまま数秒が過ぎる。
「……ったく」
居た堪れなくなって、竜児は一度大きく息を吐くと立ち上がってクマの右手を差し出した。
「…………や……て、よ」
「え?」
「――――やめてよッ!!」
叫びながら、大河は差し伸べられた手を乱暴に払う。
そして一瞬萎縮した竜児に向けて、更に声を荒げた。
「なんで戻って来てるのよ!早く行ってよ!!」
「は……?!そんなナリでわざわざ追いかけて来やがって、よくそんなことが言えるな!!」
「決め付けないで!私はただ、」
「俺の名前、呼んでただろ!!」
「――っ空耳でしょ……!勝手に決め付けないでって、今言った所!」
――……こんなことを、言いたいんじゃない
たった今気付いたのに、自分の望むように彼はここに居るのに……結局彼を拒絶することしか出来ない。
拒むことで受け入れるしかないのだ。彼の想いが、自分には向いていないと。
……差し伸べられた手は、自分が求めているものとは異質なのだから。
「……もう構わないでよ」
あなたの足枷になんて、なりたくない。
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「……」
竜児は黙ったまま、地面にへたり込んでいる大河に一歩、近づき、
「ちょ……、ちょっと!何してんのよ!!」
その華奢な体を抱え上げた。
怒りに加えて羞恥で真っ赤になった大河は、言わずもがなその四肢を振り回し、暴れる。
引っかいた爪痕が腕に何本も走り、一瞬竜児はその体を取り落としそうになる。
だが彼は彼女を抱く腕の力を緩めず、寧ろ更に力を入れて抱きしめてやった。
抱きしめた上で、彼女の動きをぴたりと封じ込めた。
「傍にいる」
――彼女が一番望んでいたはずの、その一言で。
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