夕食の後。
ゴロゴロしている大河を見てお小言を言いつつも、食器の片づけを終えた竜児は
愛用のエプロンで手を拭きながら居間へと戻ってくる。
はぁ、こいつは食って寝て牛になったら、乳も大きくなるのだろうかとか考えながら。

「ねえ竜児」
唐突に大河が話しかける。
「おう?」
「もう夏よね」
「そうだな」
「ねぇ、夏休みになったら、一緒にあれしない?」
「ん?どこか行くか?海か?」
「海じゃないわよ!」
「海じゃない?またみんな誘って川嶋の…」
「別荘じゃないし!ばかちー関係ないし!」
「お、関係ない…?」
「違うわよ!夏になったらみんなやるじゃない、あの遊びよ!」
「遊びか?…何だ?」
「…竜児。ほんとにわかんないの?」
「おう…」
「ズクダンズンブングンゲームよ」
「…聞いたことねえよ」
「みんな知ってるわよ」
「しらねえ」
「本当に知らない?」
「しらねえよ」
「本当に知らないの!?」
「……もしかして知らないの俺だけか?」
「そうよ。知らないのは竜児だけよズクダンズンブングンゲーム!」
「そうなのか?」
「ちょっと信じられないし!ありえないし!たかすりゅうじ!」
「俺かよ」
「いいわ、私が教えてあげる」
「お、おう。頼む」



「じゃ、私が攻めで竜児が受けね」
「誰に吹き込まれた」
「…セット!」
「セット…?」
「ツッチーツッチーツッチーツッチーツッチーツッチーツッチーツッチー」
大河は奇妙なポーズで竜児の周りを回り始める。
北村が見たら間違いなく「ははは楽しそうなことやってるな逢阪ぁ」とか言って一緒に踊り始めるだろう。半裸で。
「はいやる!!」
「お、おう。ツッチーツッチーツッチーツッチー」
とりあえず真似をしてみたが、慣れないポーズのうえ部屋が狭くて動きづらい。
なにより俺は大河みたいにコンパクトじゃない。
「いくわよ!ズクダンズンブングン!ズクダンズンブングン!」
そのあまりの奇妙な動きに思考が停止する。
大股で髪を振り乱すフランス人形はある意味ホラーである。
「待て!ちょっと待て!」
思わず、振り上げたその腕を掴んだ。
「ちょっと何止めてんのよバカ竜児!!」
「待て!わかるように説明してくれ!」
「いいから真似するの!」
大河がこうなったら止まらないのはよくわかっているが、止めずにはいられなかった。
「やりなさいよ…!やりなさいよこのバカ犬…グスッ…」
力比べが暫く続いた後、今にも泣きそうな顔になっている大河の顔に気づき、思わず腕を放す。
「わ、わりぃ…」
「私だって恥ずかしいんだから…バカ竜児…」
「悪い…。お前、俺とそれやりたいのか?」
黙って頷く大河。
「よしわかった。一緒にやってやる。だからもう泣くな」
「りゅーじぃ…」




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