「はぁ…」
バンコクの中心部を流れるチャオプラヤー川の水面を眺めながら、川嶋亜美は朝、目が覚めてから
18回目のため息をついた。

弁財天国での集まりから4日後。亜美は主演映画のロケでタイにいた。
バンコク市内の高級ホテルで2回目の朝を迎えた亜美は、時差による早い目覚めで持て余した時間を
つぶそうと、ホテルの周りをぶらついていた。
初日は日本からの移動だけ、昨日は丸一日キャメラテスト、そして今日からいよいよ撮影が始まる。
ロケ地の都合で珍しくストーリー順に撮影が進んでいる今回の映画では、このバンコクの地が物語の
クライマックスとなる。

しかし、主演女優である亜美は、全くのれていなかった。

原因は痛い程分かっている。大河を救い出す方法が思いつかないのだ。
みんなの前で“できることがあるはず”と大見得を切った手前、自分にプレッシャーを掛けて考え続けて
いるが未だに糸口すら見えない。お金を出すのはダメ。人脈を使って、裏社会を探るのもダメ。
いっそのこと、大河をタレントにして、大金稼げるように仕立ててみようか? あいつならテレビなんか
怖がらないだろうし、自分とお笑いコンビを組んだら、意外と受けるかも…?

「無理、よねぇ… はぁ…」
今、世間に顔をさらすわけにはいかない。今回の思考も19回目のため息を生んだだけだった。

子供達の嬌声に釣られて、ホテルの横、水路の入り口に設けられた観光用の船着き場に足を向けると、
10才前後の5-6人の男の子が、桟橋から川に飛び込んでいる様子が目に入ってきた。
器用に前転や後ろ宙返りをしながら、何度も何度も繰り返し、誰かが飛び込むと残った子供達が
手を叩いて歓声をあげている。

「こんなに濁った水に頭から飛び込むなんて、よくまぁ、やるもんだよね。でも楽しそうだからいいか。
生まれ育った水、なんだろうし…」
子供達の楽しげな遊び、そう思っていた亜美の考えは、水上マーケットのツアーに行く団体がどやどやと
やって来た時、無惨に打ち砕かれることとになった。
観光客の男達の一部が川に飛び込んでいる子供達に向かって、金を投げ始めたのだ。

「最っ低…」
動物の芸でも見るように、次々と川の中に金を投げ込む男達を見て、亜美の気分はさらにブルーになった。
しかし、本当に止めを刺されたのはその後だった。川に飛び込んだ子供達は「オサツ」「Bill」と叫んで、
もっと高額なお金を要求し始め、紙幣が川に放り込まれると我れ先にと金に群がっていった。

「最初っからお金目当てで… 遊びなんかじゃなかったのね……」
心を踏みにじられたような気持ちと、甘ちゃんな自分への嫌悪感が同時に湧き起こり、亜美は苦渋に
満ちた表情でその場を立ち去ろうと振り返った。

「よぉ! 姫。朝から絶好調だなー」
その瞬間、最悪のタイミングで声を掛けてきた男がいた。よりによって、作品の絶対権力者にして、
映画界随一の皮肉屋と言われる監督に今の顔を見られていたのだ。

バツの悪さを隠すように、亜美はにくまれ口を叩くしかなかった。
「その“姫”っていうの、いい加減やめてもらえます?」
「じゃ、世間で言われている“涙の女王”の方がいいのかな?」
「…それもお断りします」
今さら、取り繕ったところでどうしようもない。しかめっ面のまま、監督の横を通り過ぎ、ホテルに
戻ろうとした亜美は、監督から思わぬ詫びと礼の言葉を掛けられて、足を止めた。
「すまん。ちゃかして悪かった。昨日は主演女優自らテストに付き合ってもらって有難う。
ただ、こっちに来てからずっと冴えない顔してるんで、ちょっと気になって声を掛けたのさ」

心理状態をすっかり見透かされいて、亜美はますますバツが悪くなった。が、ここで拗ねたり、
怒ったりするのは自分がガキだと証明する様なものだと思い、素直に頭を下げた。
「すいません。大事な撮影の前に」
「いや、カメラの前でしっかり役に入ってくれりゃ、全く文句はございやせん」




嘘ばっかり。このままじゃ、まともな演技はできないだろってことでしょ?
そう言い返そうと思った亜美の頭の中である考えが浮かんだ。
皮肉屋と言われつつも、人の感情を掘り下げた描写や、社会派といわれる作品で評価を得ている監督に
疑問をぶつけてみるのはどうだろう? 皮肉を言われ続けてきた、ささやかな意趣返しも兼ねて…

「監督、1つ聞いてもいいですか?」
「なんだい、お姫様?」
「監督は映画で世の中が変えられると思いますか?」
「へぇー、またいきなり大きくでたな…」
「今回の映画は捨てられたと憎んでいた母の足跡をたどりながら、娘が真実を知っていく話ですけど、
背景に世の中の理不尽とか抗えない力に翻弄されるヒトの姿が描かれてますよね」
「解説ありがとう。でも貧困、暴力、差別、無関心って言った方がもっと分かりやすいよ」
「……………。 じゃあ、この映画を通して、そういう世の中が変わるんでしょうか? いや映画を
見た人が現実を変えようと思ったり、実際に現実が変わったりするんでしょうか…?」
「……芸歴10年になろうかというベテランの発言とは思えんな… ふむ… お前、何か変えたい現実が
あって、それができなくて落ち込んでいるのか? お前の性格からして自分や家族、恋人のことなら、
落ち込む前に動いてるだろうから、手の届かない、少し離れた人のことだな。友達とか」
「……」
「しかも昨日今日のことじゃない。お前がそこまで自分を役に追いつめることができるのは、そのせいか?」
「……」

沈黙がYesと同じであることは明白だった。そして話す相手を間違えたと思った。この人に1つ話せば、
5つ読まれ、3つ話せばその人間の心を把握される。監督を信じていない訳ではないが、この業界、
噂だけでもどうなるか分からない。亜美は、話してしまったことに不安と後悔を感じ始めていた。

「ふっ… そか」
監督が小さく息を吐いた。
「川嶋、”世の中を変える” そんな大それたことのために映画を撮ってるわけじゃない。
俺はただ面白い話を形にしたいだけだ。ただ、ある映画評論家が書いてたな、 
”映画や芸術は、政治や経済や軍事と違って世の中そのものを直接変えることはできない。
でも、個人個人の考え方は変えることができる” とな。
人間が一生のうちに経験できることなんてたかが知れている。だが、映像を通してなら、物語に入り込む
ことができる。端からみたらドタバタのコメディでも、受け取る人間によっては、人生を変えるぐらいに
大事なことを気付かせてくれたり、何かを生み出したいという力を呼び覚ます場合もある。映像の力、
物語の力はあなどるもんじゃないぞ…」

「じゃ、監督はああいうのはどう思いますか? 何かできるんですか?」
亜美は少し意地悪く、川に飛び込む少年達と、金を投げる観光客を指差した。

「ふーん、なるほどね… 今の日本人は物乞いに慣れてないからな。
いつもライブではやらないんだが、こういう方法もある。距離が離れてるから、顔の処理はいらんだろう」
そう言うと監督は胸のポケットに入れたスマートフォンで観光客と少年の様子を撮影し始めた。

「監督、何を?」
「世界中の日常をムービーで撮って匿名で動画投稿サイトにアップするのが、ささやかな趣味でね。
結構人気あるんだぜ、俺のアカウントは。ホテルのネットは届いているな…… タイトル入れて…
ちょっと待てよ……ほらアップ完了だ。少ししたら面白い現象が見られるかもしれんぞ」

亜美が画面を覗き込む。更新を繰り返しながら、暫く見ているとムービーの再生回数が増えていき、
色々な言語でコメントが書き込まれて行く。非難だけでなく、多様な意見、見方が書き込まれていく。
「ま、映像1つでこんな刺激を生むことができたりするわけだ… 映像を世に出す。何かの反応が起こる。
見る人によっては深く刺さって、何かの行動に結びつくかもしれない。それが作り手の醍醐味なのかもな」

亜美は右手の親指の爪を噛みながら、画面をじっと見続け、何かを考えていた。
やがて意を決して顔を上げると、監督に向かって力強く言った

「監督、クランクアップして、納得するいい作品が撮れたら、是非お願いしたいことがあります。
話を聞いてもらえますか?」



「櫛枝、今日は車で行くのか?」
「うん、大河の仕事が何時に終わるか分かんないし、部長にお願いして、貸してもらった。
こう見えても運転は結構うまいんだぜ!」
チームの道具を運ぶ白いライトバンの車体をポンッと叩きながら、実乃梨はにっこりと微笑んだ。

亜美の決意の2日後、クリスマスイブを明日に控えた金曜日、実乃梨は仕事が終わったばかりの竜児を
訪ねていた。大河をどう説得するかもう一度話がしたいと、最初は竜児が実乃梨の合宿所を訪ねようと
したのだが「高須君の身の安全が第一だから、私が行くよ」と自ら車を駆って、竜児の会社の施設まで
やって来たのだ。

「グラウンドコートも着てるし、ホッカイロも持ったし、スキーキャップをかぶれば、張り込みアーンド
尾行もばっちりだぜ!」
「おう。じゃあ、今夜はさっき話した通り、“明日、俺と会って話をする”という約束を大河とするんだな?」
「細かいところは出たとこ勝負だけど、必ず大河の心を掴まえてみせるよ。高須君と会う約束をすれば、
大河も一晩どうしたいのか考える時間もできるしね。一気に押すよりその方が効くと思う。その次は高須君、
君の出番だよ!」
「ああ、分かっている。ところでマスターには話すのか?」
「ううん。マスターを信用していないわけじゃないけど、いずれ私達は大河をあそこから連れ出す。
できるだけ悟られないようにしないとね」
「だな…」
「大河と話したらすぐ連絡する。大丈夫、きっと明日も高須君を迎えに来ることになるよ。
高須君、前に会った時、大河の右手に気付いてた?」
「ああ… 櫛枝も見てたか」
「当然だよ。勝機は我らにあり。じゃあ高須君、行ってくる」

「あ、く、櫛枝、待ってくれ!」
車に乗り込もうとする実乃梨に、竜児は慌てたように声を掛け、あるものを差し出した。
「これ、持って行ってくれないか。あいつ、こないだ持ってなかったろ」
「…ふっ、高須君。君も相当な策士よのぅ、本当の用件はこれだったんだね…」
「そ、そんなんじゃねぇよ。あのさ、こうやって…」
「知ってるよ。うん、これはきっと使えるね」
そういって実乃梨は竜児から預かったものをグラウンドコートのポケットにしまい、運転席に座った。

「頼んだぞ、櫛枝」
「吉報を待っててくれたまえ。では櫛枝実乃梨、行って参ります!」
おどけたように敬礼のポーズを取ると、実乃梨は滑らかにライトバンを発進させ、赤く光るテールライトの
流れの中に消えていった。


* * * * *


それから数時間後…

エンジンを切った車の中、ハンドルにもたれ掛かりながら、櫛枝実乃梨はじっと1点を見据えていた。
バーの裏口がこのコインパーキングに止めた車の中からちょうど正面に見える。
距離は離れているが、チームでも1、2を争う視力と選球眼を誇る実乃梨なら全く問題ない。

ここに車を止めてすぐ、店の裏口まで行き、こっそり中の様子を伺ってみた。
「とらちゃーん、お水出して」というマスターの声が微かに聞こえたから、きっと大河はまだ働いている。
あとは出てくるのを待つだけだ。

「やっぱ暖房ないとさみぃわ…、じっと待ってるのも得意じゃないしね… 何か考えごとでもするか…」
ポケットに入れたカイロを握りしめながら、実乃梨は大河と初めて出会った日のことを思い出し始めた。



大橋高校入学式の日、新たな学校生活が始まるというのに、実乃梨ははっきりいって腐っていた。
理由は簡単。好きな野球は女子というだけでリトルリーグまで。ならばソフトボールをやろうと、
自宅から通えて、女子ソフト部がある大橋高校に必死に勉強して入学したものの、県大会でせいぜい
1-2回戦レベルの部では、今一つ気持ちも盛り上がらない、というもの。

加えて1才年下の弟には、中3になったばかりだというのに連日甲子園の常連校から特待生の誘いがあり、
両親が無邪気に「今日は○○○高校から、明日は△△学院が挨拶に来たいって…」などと話すものだから、
実乃梨が意気消沈するのも無理はなかった。

「この高校で部活しながらバイトでお金貯めて、体育大からソフトの全日本を目指すなんて、とんでもない
道程だなぁ…」
入学式が終わって戻ってきた教室の中を見回しながら、受験のさなかに描いていた夢の現実感の無さに、
我ながらあきれたように、実乃梨はつぶやく。
地元の高校だけに、見知った顔は何人かいるが、中学3年間をひたすら野球に打ち込んでいて、同級生と
親密な交流がなかった実乃梨は「キャー、高校でも一緒のクラス!」とはしゃぐ女子達の輪には加われない。

ふと気が付くと隣の席が空いていた。最も廊下寄りの最前列。
「初日だから席は五十音順だよね。あ…さんかな? い…さんかな? 入学初日にお休みなんて風邪かな? 
車にはねられたなんて不幸なことは無いよね…」
と独りごちていた時「ガラッ」と教室の前後の扉が同時にけたたましく開かれた。

前の入り口から1年間担任となる教師が、後ろからは誰か生徒が入ってきたようだ。
目の前を通る教師の姿を追っていると「入学式に遅刻するなんて…」とぶつぶつ呟いている。
後ろの方からは「チッ」という乱暴な舌打ちと共に乱暴な足音が近づいてきた。
同時に男子から「おぉぉぉぉー」という地鳴りのような声があがっている。

なんだろう?
振り返った瞬間の衝撃を、実乃梨は今でもはっきり覚えている。

とんでもない美少女が目の前にいた。

「びっ、びしょうじょぉぉぉ…」
実乃梨の口から思わずそのまんまの言葉が漏れていた。
中学ではミスターレディでマルガリータだった実乃梨にとって、その少女はまさに異星人だった。
栗色から薄灰色に煙るような髪は腰のあたりまでふうわりと伸び、すらりと優雅に伸びた四肢は人間離れ。
小さな顔は良くできたガラス細工の様な美しいラインを描き、顔の真ん中に位置するような色素の薄い
大きな瞳はコンマ1秒見つめただけで、吸い込まれそうな気がした。
そして何よりも身体全体が自分と同じ高校生とは思えない程「ちっちゃい」

自分は一体今、何という生き物と接近遭遇しているのか? それまでの落ち込みを忘れる程、実乃梨は
混乱していた。

「フンッ!」
恐らくとてつもないアホづらをしていたのだろう。美少女は実乃梨を見てあざ嗤うように鼻を鳴らすと、
不機嫌を全身で表わしながら、どっかりと椅子に腰を下ろした。
その様子、実乃梨には「ちょこん」という擬音しか聞こえなかったが。

櫛枝実乃梨と逢坂大河。最初の出会いであった。



地味な高校に似つかわしくない美少女の存在が、学校中で噂になるのにさほどの時間は掛からなかった。
休み時間、廊下越しに教室を覗き込む男子の数が増え、やがて、自信がある男子や高校デビューを
目論む男子(おかっぱ頭のメガネ男を含む)等々による告白ラッシュが始まった。自分の目付きの悪さを
気にして、人との接触を避けていた男子約1名はその存在を1年後まで知らなかったようだが…

最初、実乃梨はこの美少女を正直疎ましく思った。
見た目が可愛いというだけでチヤホヤされてるのに、愛想もへったくれもなく、話し掛けてもろくな返事を
しない。財布や筆記用具などの持ち物はやたらブランド品で固められているし、きっと本物のお嬢様が
何かの間違いで、こんなパッとしない高校に入ってしまったのだろう。同じ年齢、性別なのにこうも境遇が
違うものか、この子なら苦労しなくても望むような人生を送れるのでないかと感じていた。

だが、その美少女−逢坂大河の評判が少しずつ変わっていくに連れて、実乃梨の見方も少しずつ変わって
いった。皆が考えているのと全く逆の方向に。

美少女は、告白してきた相手に罵声を浴びせるだけでなく、ひどい時は暴行する、教師も生徒も関係無く、
気に入らないもの全てに噛み付くという話が広まって行った。
やがて誰がつけたか、美少女は「手乗りタイガー」という二つ名で呼ばれるようになっていた。

しかし、実乃梨にはどうしても解せない点があった。告白されても全く受ける気を感じないのに、
何故無視しないで律儀にのこのこと出て行くのか? 恵まれた者の気まぐれかお遊びと思っていたが、
ある日、昼休みに呼び出された後、教室に戻ってきた美少女の目を見て、実乃梨はハッとした。

瞳に光が宿っていない。
それは世の中への期待というものを一切放棄した者の目だと感じた。
野球を続けたいという一生の夢を笑われ、後回しにされ、絶たれてしまった実乃梨だからこそ、
それに気付けたのかもしれない。

わざわざ告白を受けにいくのも、拒絶を繰り返すことで噂が広まり、やがて誰も自分を構わなくなる。
そういう立場を自ら望んでいるのではないか… 一方で他人に同調したり、おもねることは決してせず、
気に入らないことは気に入らないとはっきり言う。端から見ていると確かに無茶苦茶だが、彼女なりの
ルールというかポリシーのようなものを感じる。決して恵まれてなんかいない、むしろ孤独…
そう感じた時、美少女の姿が孤高と呼ぶにふさわしい「傷だらけの虎」に見えたのだった。


* * * * *


櫛枝実乃梨と逢坂大河の人生が交わるきっかけとなったのは、入学して1ヶ月程たったある朝の出来事だった。

その日は急に雨が振り出して、朝練が早く終わった。実乃梨はいつもより早い時間に教室に戻ってきて、
HRまで珍しく予習でもするかと教科書を取り出した時、教室の窓際から、男子達の声が聞こえてきた。
この進学校にもちょっとヤンキーっぽいグループがいる。その数人だった。

「ほんと、あの女ひでーよな」
「逢坂のことだろ?」
「一体どんな育て方されたら、あんな凶暴で口悪くなれるんだ?」
「告った男子、全員のされてるらしいじゃん」
「親がヤクザか、空手家の噂って本当なのかよ?」
「いずれにしろ、親も子も真っ当な人間ではないのは確かだよな。名前もヘンだし」
「しかし、誰が付けたんだ“手乗りタイガー”って、笑えるー」
「ぴったりじゃねぇか、チビの癖に偉そうで、らんぼ… お、おい、何だよ、櫛枝」

“真っ当な人間ではない”あたりで勝手に身体が動き、実乃梨はあっという間に男子達の輪の中に
飛び込んでいた。



「おめぇらなぁ、男の癖に陰でコソコソ、人の悪口言ってんじゃねーよ。言いたいことがあるなら、
本人に面と向かって言ってみろよ。できないクセに。恥ずかしくないのかぁ?」
「なんだよ、お前。あんな奴の肩持つのかよ」
「ああそうだよ。おめぇらみたいな性根の腐った奴より、逢坂さんの方がよっぽど真っ直ぐだよ」
「てめぇ、このヤロー」

一番腕っぷしの強そうな奴が実乃梨の肩を掴もうと前に出てきた。実乃梨はその腕を素早く取って、
容易く背中にねじ曲げる。
「イ、イテテテ…」
「毎日弟と取っ組み合いしてたんだ。あんたらみたいな口先だけの軟弱者にケンカで負ける気はしないね」
「なんだと!」
「おいっ! 女子だと思っていい気になりやがって!」

まさに一触即発。どちらかが次の手を出せば、たちまち殴り合いか取っ組み合いになる寸前、たまたま
通りがかった別のクラスの教師が仲裁に飛び込んできた。
「お前ら、なにやってんだ。もうじきHRだ。早く席につけ!」
いつもどおり遅刻寸前に教室にやってきた美少女も、教室の異様な雰囲気に気がつき、
戸口のあたりから、訝しげに周りの女子の会話に耳をそばだてている。

「…なになに? どうしたの?」
「…櫛枝さんが逢坂さんを庇って、男子とケンカだって」
「あいつら、逢坂さんの悪口言ってたんでしょ? いつも偉そうにしてるから、ちょっといい気味」
「でも、なんであの子が怒るわけ? なんて言ったの?」
「“お前らみたいな腐った奴より、逢坂さんの方が真っ直ぐ”だってさ…」
「へー、よくやるよね。ま、櫛枝さんもなんか変わってるっぽいし…」

「ふんっ!」
実乃梨は男子生徒の腕を外すと、何も言わず自分の席に戻ってきた。
席の横には美少女が目を丸くして立っている。実乃梨はその顔をチラッと見たが、やはり何も言わずに
どっかと椅子に腰を下ろす。

美少女が実乃梨に向かって、初めて自分から声を掛けた。
「…よ、余計なこと… しないでよね…」
実乃梨は言葉の代わりに無言で見つめ返す。逢坂大河はバツが悪そうに視線を外すと、逃れるように
席につき、何も語らなくなった。


* * * * *


「あ、あの、くし…えだ、さん…」
暗さを増してきた夕暮れの空の下、練習の後のグラウンド整備と道具の片付けがようやく終わり、
実乃梨はバイト先に急いで向かおうとした時、校門でいきなり誰かに声を掛けられた

クラスの隣人、逢坂大河が校門の影にひっそりと立っていた。

「え、えっと…」
「逢坂さん、どうかしたの? 私に何か用?」
いつから待ってたんだろう? まさか練習の間ずっと? そんな疑問が浮かびながら、
実乃梨は言いにくそうな彼女の言葉を促すため、あえて意地悪く聞いてみた。

「あ、あの、今朝は、ど、どうも、あ、有難う」
そういうと逢坂大河はペコリと頭を下げた。

やっぱ思っていたとおりだ。見た目の凶暴さだけが本当じゃない。ちょっとひねくれてるけど、
律儀で温かい、普通にイイ奴じゃん… 実乃梨は自分の目に狂いが無いことを実感していた。




「そ、それを言いたかっただけだから、じ、じゃ…」
そういって、立ち去ろうとする逢坂大河に向かって、実乃梨は叫んでいた。
「ねぇ、逢坂さん! 一緒に帰ろうよ! 私、これからバイトなんだ。途中まででいいからさ」

驚いて振り返った逢坂大河は、意外感と警戒感が混ざりあった表情のまま、おずおずと答える。
「で、でも私といると、変な風に言われるよ」
「手乗りタイガーかい? 知ってるよ、その呼び名」
逢坂大河の顔がほんの少し、苦々しく歪んだ。
「ひどいよね。こんなに可愛い女の子掴まえて、虎呼ばわりだなんて」
「えっ?」
「私は全然気にしないよ。いこっ、逢坂さん」
実乃梨は逢坂大河の手を取って、駆け出そうとした。その時、

グ、グーッ、キュッ、キュゥゥゥゥ……
その容姿に似つかわしくない、生存本能むき出しの音が腹から響いた。逢坂大河の顔がみるみるうちに
真っ赤になっていく…
「ほ、放課後からずっと待ってて、な、何も食べてなかったから…」
俯いて、言い訳にならない言い訳を消え入りそうな声で呟く。

実乃梨は年頃の女の子らしい姿が見られて、何か無性に嬉しい気分になっていた。
「逢坂さん、私のバイト先のファミレスで何か食べてく? おごれないけれど、パフェやポテトなら
こっそり大盛りにできるぜ?」

「!」
顔をあげた瞬間に逢坂大河が見せた、パァと光輝く笑顔をこれまた実乃梨は生涯忘れることができない。
一言でいうと「心を丸ごと持って行かれた」
可愛い子捕捉用レーダー、後に“みのりんレーダー”と呼ばれるそれは、恐らく計測不能値を示し、
ぷすぷすと煙をあげていただろう。

なんて愛くるしい顔をするんだ。こんな表情のできる子が光を持たない目をするなんて、
絶対何か間違っている。実乃梨はその時、あることを心に感じ、そして決めた。

「よぅし、じゃ来なよ」
「うん! …っていいの?」
「おうさ! 大丈夫だよ。泥舟に乗ったつもりでついて来なさい」
「いや、泥舟は沈むし…」
「ありゃー 大舟の間違いだったわ!」

2人は学校前の坂道を下りながら、改めて自己紹介をしあった。
「入学してからもう1ヶ月も隣同士だったのに、なんだかおかしいね…」
実乃梨は嬉しそうに大河に微笑みを向けた。

自分が原因だという自覚があるのだろう、大河は照れ隠しで話題を反らそうとする。
「く、櫛枝さんはまだ高校始まったばかりなのに、もうバイトしてるんだ。え、えらいね」
「はは、ちょっとやりたいことがあってさ…」
「やりたいこと、あるんだ。いいな、うらやましい… ね、どんなこと? 教えて!」
「あ… あぁいや… そ、そう“勤労”っていうのをやってみたかったのだよ!」
「何それ? 働くことがやりたいこと? なんかヘン。普通はその先に何かあるわよね」
「いやぁ、勤労は大事ですよ。額に汗してお金を稼ぐ、千里の道も一歩から、百聞は一見にしかずってね」
「なんか変な櫛枝さん… まぁいいか、人それぞれだもんね…」

言えない。
とても今の自分の夢を話すことなんてできない。
笑われるからとかそんなんじゃない。自分がきちんと向き合えていないからだ。
部活はやってるけど、ただ普通に参加してるだけ。バイトも1つ始めてみたけど、やることをこなして、
漫然と時間が過ぎるのを待ってるだけ。そんな人間は夢なんて語っちゃいけないんだ。
そう思った実乃梨は、今度は自分が話題を変えようとした。



「あ、逢坂さん、大盛りはいいけど、大丈夫? 夕ご飯もうすぐでしょ…」
「いいの。どうせ1人だし」
「お母さんとお父さん、今日はお出掛け?」
「ううん、ずっと1人。私は1人で住んでるの」
そう言うと表情を見られないようにするためか、大河は少し早足になって先を歩いていく。

嫌な予感がした。他人の家の事情なんてそれぞれだから、土足であがり込むような真似は慎むべき。
頭の中ではそんな言葉が響いていたが、実乃梨の口はもう先に動いていた。

「1人暮らしって、あ、お母さんは高名な舞台演出家で、お父さんは外国行きの船の船長さん、とか…?」
「…ううん、そんなんじゃない…」
大河は振り返って、その吸い込まれる様な瞳で実乃梨をじっと見つめた。

どうせ引かれるなら、さっさと言ってしまった方が傷は浅くて済む… 後に、その時の心境を大河から
聞く機会があったのだが、大河の口から出た言葉は実乃梨にメガトン級の衝撃を与えた。

「親と折り合いが悪くてね。こんな家、出てってやるっていったら、本当に追い出されたの。
マンションの1室をあてがわれて、今、そこに1人で住んでるの」
「えっ…?」

その瞬間、この1人の少女の行動、言葉、表情、瞳の光、この学校にいる理由が分かった気がした。
高校1年の女の子を家から放り出す? お金はありそうなのに、心はこれっぽっちもないってこと?
見知らぬ大河の親への怒りが湧くのと同時に、実乃梨は自分のこの1ヶ月あまりの行動を恥じていた。

大河は過酷な運命にさらされながら、なおも孤高であり続けようとしている。なのに自分は何だ?
人に笑われたって、親が気に掛けてくれなくったって、チームが弱くたって、そんなの全然関係ない。
自分はまだ何も始めていない、なのに、ただ勝手に腐っているだけじゃないか!

それは大河に同情したり、見下したものではない。初めて自分を客観視して気付いた、自分自身への
怒りだった。そうだよ、なにやってんだよ、意地を張るって決めたんだろ? だったらとことんやれよ!
やってみせろよ、櫛枝実乃梨!

暫く返事がないので、大河はやはりドン引きされたのだと思っていたという。
だからその後に実乃梨の言葉は、大河に驚きと、この人は違うという印象を与えることになった。

「ほほう… だったら、心置きなく食べられるね。よぅし、ポテトもパフェも盛るぜぇ、超盛るぜぇ〜!
2−3日分、まとめて食っていきな! あ、野菜も食べなきゃだめだぞ! 寝る前はきちんと歯磨けよ」
「え?、あ、あ、う、うん……」
まさかそんな方向から答えが返ってくるとは思っていなかったのだろう、動揺し、俯きながらも、
大河の頬には心無しか笑みの形が浮かんでいた。

「ねぇ、逢坂さん、これから”大河”って呼んでいい?」
「へ? た、たいがって?」
驚いて顔をあげた大河の白い肌が、頬から耳朶へとみるみるうちに真っ赤に染まっていくのが見える。
親しげに呼ばれることに慣れていないのだろうか? その様子が可愛すぎて、実乃梨は頭からガシガシ
かじりつきたくなる衝動を抑えるのが精一杯だった。

「い、いいけど… でも…」
「私のことも“実乃梨”って呼び捨てでいいからさ」
「実乃梨、みのり、みのり…ん。呼び捨ては悪いから、“みのりん”でいい? その方がなんか可愛い」
「おぉ、女の子らしくていいね。いいよいいよー。私からは大河のままでいいかな? この響きが好きでさ」
「好き…? い、いいよ。み、みのりん」
「大河。私達は今日から友達、いや親友だ!」
「し、親友って… みのりん…」
「そうだよ大河…」
「みのりん…」
「大河!」
「みのりん!」


そうして、私達はお互いにかけがえの無い存在になっていったんだ…
そういえば、高須君とも何かの機会にチャーハンをご馳走になって、それから距離が近づいたと
言ってたっけ。結局、私も高須君も大河を「餌付け」したわけだ。

そんないきさつがあったから、私は誰よりも大河の気持ちが分かると思っていた。だから、高須君の
登場とその後の展開は色んな意味で衝撃で、天変地異で、ノストラダムスの大予言で、そりゃもう
大騒ぎになってしまったけれど…

でも、修学旅行のスキーの時、遭難した大河をもう一度探しに行くと言い出したのは私だ。
あのバレンタインの日、高須君、あーみん、北村君の前で、大河の心の叫びを引きずり出したのも私だ。
この間、路地で大河を追いかけて捕まえた時も、高須君が来るまで、私の前で大河は取り乱していた。

あの時「竜児を幸せにして」なんて言った大河の言葉は、これっぽっちも本心だと思っていない。
その場を取り繕って、逃れようとして、口からでまかせを言ったのがすぐ分かった。だから殴った。

大河の壁を払う。それは私の役目。

そして今、再び大河と対峙しようとしている。

「来た!」
バーの裏口が開き、店の中からこの前と同じ若いバーテンと大河が出てきた。服装も前と同じ恰好。
マスターも後ろから出て来た。

「じゃ、とらちゃん、明日はお休みか… クリスマスイブだからな…」
「すいません、マスター。週末の忙しい時に」
「いや、いいんだよ。たまには1人でゆっくりするといい」
「はい… 有難うございます」
「じゃ、お疲れさん。また月曜日な」
「失礼します」

前の時と同じ方向へ歩いていくのを確認して、実乃梨は音を立てないよう車から降りた。
あの路地の先に暫く曲がり角がないのは、大河の様子をうかがった時に確認済みだ。

マスターが店の中に戻ったのを見て、実乃梨は軽く駈けながら、大河の後を追った。



付き添いのバーテンが帰った後も、大河は自宅と思われるアパートの前でたたずみ、
キャップをとって、その豪奢な髪を夜風に少しなびかせながら、ぼーっと夜空を見上げていた。
電柱の影に隠れていた実乃梨は、バーテンの耳に声が届かないタイミングを見計らった後、
音も無く近寄ると、大河の前にその姿を見せた。

さぁ、私と大河の真剣勝負、久しぶりにピッチャーとして、遠慮無しにやらせてもらうよ

「大河!」
「み、みのりん!! どうして、ここに? お、お店からつけてきたの?」
「おうよ。女子ソフトボール日本代表の切り込み隊長といえば、このみのりん様のことだ! 
尾行なんか楽勝だぜ!」

まずは一球、外角低めで様子を見るか

「大河、こんなところに住んでいたんだ。いいところじゃん。なんか高須君ちに似てるね」
「…帰って。前にも言ったでしょ。みのりんにも竜児にも話すことなんか無い。2人には関係ないの。
だから帰って」

ぴくりとも反応しない。ま、予想通りだ

「じゃあ大河、その右手の指輪は何? それ高須君に貰った指輪でしょ。あーみんから聞いたことあるよ。
関係ないなら、どうしてそれをつけてるの?」
「こ、これはただのオヤジ避けよ。酔っぱらって声掛けてくるオヤジを追っ払うためよ」
「じゃあ、別に高須君に貰ったのじゃなくていいじゃん」
「今はこれしか持ってないの!」
そう言うと、大河は、実乃梨のまっすぐな目を避けるように背中を向け、絞り出すように言った。
「お願いだから… 帰って… みのりん」

真ん中高めの釣り球、もう少しで振りそうになった。いける。大河の心はこっちにある

「おやぁ、冷たいねぇ。じゃあ、大河。1つゲームしていい? 大河が勝ったら言う通りに帰るよ」
「ゲームなんて知らないっ!」
そう言い残して、外階段を上がりかけた大河の首に、実乃梨はポケットからすばやく取り出した竜児の
マフラーをふわりと掛けた。髪の上から一周、そして二周と巻きつけると、首の後ろでキュッと結んだ。

「り、りゅ…う…じ…」
鼻先から口元まで覆われたカシミアのマフラーから、懐かしい匂いが一杯に広がって、
大河の脳裏に竜児との数々の記憶が鮮やかに甦ってくる。

大河は階段の手すりをつかんだまま、ゆっくりとその場にしゃがみ込んでしまった。
大きく見開かれた目から、みるみるうちに涙が溢れてくる。
「みのりん… ずるいよ。反則だよ…」

ごめんね大河。私は得意球を真っ先に使うタイプなんだよ。内角一杯、ワンストライク。
続けていかせてもらうよ。

「はい、大河の負けだね。泣いたら負けがルール。負けた人は罰ゲームがあるんだよ。
明日、高須君をここに連れてくる。だから2人で1度ちゃんと話をして欲しい」
「イヤ!」
「駄目だよ大河、負けた人に選択の余地はないんだよ。あと、聞いて大河。高須君がヤクザに襲われた」
「えっ!」
大河は振り返り、実乃梨を見た。その瞳には驚愕と恐怖の色が浮かんでいた。




「あ、心配しなくていいよ。ケガとかはたいしたこと無いし、その後うまく逃げられた。
でも、手慣れてるみたいだね、ヤツラは。だから大河、もう私達は関係無くないんだよ。
このまま放っておくと高須君はヤクザの事務所に乗り込むって言ってた。そうなってもいいの? 大河」
「そんなの、そんなの、ひどいよ、みのりん」

乗り込むって言ったのはホントは北村君。
意地悪な落ちる球で悪いけど、空振りだね。これでツーストライク

「いいかい大河。私はここで説得なんかしない。ただ、高須君ときちんと話して欲しいんだ。
2人で話して、どうするのがいいか考えて欲しい。それが私のたった一つの願い。親友の願い、
聞いてくれるよね」
「みのりん…」

「大河が頑張ってること、みんな知ってるよ。決して逃げてなんか無い。でもやり方は大河が
選んだ1つだけなのかな? それを話して欲しい、高須君と」
「みんなって?」
「あーみんに北村君、能登君も春田君も麻耶ちゃんに奈々子ちゃんも、それに狩野先輩。妹のさくら
ちゃんと富家君もいるよ。大河がどうすれば帰ってこられるか、みんなで集まって話し合ってるんだよ」

「みんなが? どうして?」
「大河、気づいてないんだね。みんなにとって、どれだけ大河がおっきいか。大河と会わなかったら、
今の自分は無い。みんなどこかでそう思っている。だから真剣に考えてる、悩んでる。そして待っている。
大河は1人じゃない。みんながついてる。だから大河も一度でいいから一緒に考えて欲しい… 
会って話してくれるね。高須君と」

仕上げはストレートど真ん中。もはや手は出ない。ストライクスリー、勝負あった。

大河は実乃梨の目をまっすぐ見つめたまま、小さく「コクン」と頷いた。

「ようし! 大河はやっぱりイイ子だ」
実乃梨は大河の上半身を抱きかかえると、かつて毎朝そうしていたように、わしわしと髪を撫でまわす。

「みのりん…」
「じゃあ、明日夜、遅くならない時間に来るよ。大丈夫、ヤクザに見つからない方法も考えてる。
明日はお店休むんでしょ。身体を休めて、ゆっくり待っててよ! じゃ、私はこれで帰るから。
大河・・・ 信じてる」

そういうと実乃梨は身を翻し、手を振りながら、大河のもとから走って去っていった。
大河は暫く呆然とたちつくしていたが、やがてゆっくりと階段を上がり、2階の自分の部屋に入っていった。

角を曲がったところで、こっそり大河の部屋を確認したあと、実乃梨はケータイを取り出し、1つ、2つと
ボタンを押す。
「高須君? 大河を打ち取った、いや、会うことを承知したよ。うん、私の目を見て頷いたから大丈夫。
…うん、そう、絶対逃げたりしない。私は大河を信じてる。あとは高須君にかかってるよ。
じゃ、明日迎えにいくから」

ピッ

ケータイを切ると、続けてボタンを押した。
「春田君? こっちは大丈夫。例のもの予定通り頼むよ。うん、じゃあ明日」


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