「う〜ん……」
 逢坂大河は悩んでいた。
 目の前にはレザー風のチョーカー、端にクリップのついた細長いフェイクファーのアクセサリー、同様の素材で作られた三角形が二つついたカチューシャ……
 有体に言えば『ネコミミ変身セット』なのであった。
 とはいってもマニア向けのような本格的なものではなく、安っぽいパーティグッズなわけだが。
 みのりんと一緒に駅ビルに行って、ゲームコーナーのキャッチャーマシンで見つけて、
 冗談でチャレンジしてみて、惜しい所で失敗して、気がついたら千円突っ込んでゲットしていた。
 みのりんは「似合う似合う、可愛いよ大河」と言ってくれたけれど。
 ちょっと想像してみる。
 放課後の教室、二人きりで――『わ、私を北村君の飼い猫にしてほしいにゃん』
「うああぁぁぁ……」
 思わず身悶え。やっぱり恥ずかし過ぎる。
 それでも上手くいけばいいけれど、そうでなければ、
「変態か、さもなきゃただのバカじゃないの……」
 みのりんに言わせれば「コレで誘惑でもされた日にゃ〜、どんな奴でもイチコロだね!」ということなのだけど。
「うぅ〜ん……」
 と、思考のループを遮る携帯のコール音。
「……なによ」
『なによじゃねえ、メシだぞ大河。早くこねえと冷めちまうぞ』
「わかってるわよ、今行く」
 携帯を閉じて、ふと思いつく。
 竜児で試してみよう。
 ご飯を食べて、やっちゃんが出かけたその後で。
 『イチコロ』ならばそれでよし、そうでなければまた考えればいいのだし。
 笑ったり馬鹿にするようなら……殴る。

 クスクスと笑いながら、大河は高須家に向かう。

 竜児が慌てふためいたりすると面白いのだけど。
 いっそのこと、本物の猫のように振舞ってみせるのも楽しいかもしれない。


 高須竜児がいろんな意味で絶句するまで、あと一万秒。




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