「大河、調子はどうだ?」
「ん……だいぶ落ちついたみたい」
「そうか、よかった」
 大河はベッドから身を起こし、竜児はその横に腰掛ける。
「ごめんね、心配かけて……」
「こればっかりは仕方ねえんだし、気にするなって。医者だって言ってたろ?悪阻は病気じゃないってさ」
「うん……」
 大河の両手は、僅かに膨らみ始めた腹部に添えられて。
「な、なあ大河……俺も触ってみていいか?」
「え?まだ全然わからないわよ?」
「いいんだよ、それでも」
「それなら……ど、どうぞ」
「おう……」
 竜児はおそるおそるといった感じで、大河のお腹にそっと触れる。
「ここに居るんだよな……」
「うん、そうね……私達の赤ちゃん……」
「男の子かな?女の子かな?」
「まだわからないわよ……竜児はどっちがいいと思う?」
「そうだな……男の子かな」
「なんで?」
「ほら、男の子は母親に似て、女の子は父親に似るって言うじゃねえか。
 俺は子供の頃、見た目でかなり苦労したからさ……」
「竜児……」
 大河は竜児の頬に手を添えて、力任せにぐいっとつまみあげる。
「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよこの駄犬」
「ひへへへへ!」
「男の子が母親に似るっていうならあんたはどうなのよ」
「おう……そういやそうか……」
 赤くなった頬をさする竜児。
「大体ね、男の子だろうが女の子だろうが、私に似れば可愛くて竜児に似れば格好良いに決まってるじゃないの」
「いや、嬉しいけどよ……俺のこの悪人ヅラを格好良いって言ってくれるのは大河ぐらいだぞ。
 そのおまえにしたって、昔は顔ネタで散々罵倒してくれたじゃねえか」
「ああ、あれは愛情表現だったのよ」
「……言い切りやがったな……」
「まあ、確かに色々あったのかもしれないけどね、それでも竜児はきちんと真っ直ぐ育ったし、友達もできたじゃないの。
 今からくだらないこと考えてないで、あんたは父親らしくどーん!と構えてればいいのよ」
「お、おう、どーん!だな」
「……何か、まだいまいち頼りないわね……
 そうだわ、あんたがその……個性的な顔でよかったってことを一つ教えてあげる」
「何だよそれ?」
「竜児ってば優しいし気配り出来るし家事は完璧じゃない。なのに私に会うまで彼女が出来なかったこと」
「……それは、よかったことなのか?」
「当然でしょ。もし竜児に彼女がいたら、私達が付き合って結婚することなんて無かったんだもの」
「あんまり褒められてる気がしねえけど……まあ、そうだな。そう考えると親父の遺伝子にも感謝ってことか」
「そうそう。人生何が幸いするかなんてわからないんだから、余計な心配なんてしてないで、ほらもう一度、どーん!」
「おう、どーん!だ!」




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