うららかな日曜日の昼下がり。大河と竜児はのどかな時間を満喫していた。
洗い物を済ませて、居間で二人でテレビを見ていたが、ふと「すぅ…」と静かな寝息が聞こえてくる。
朝方の雨もすっかり上がり、梅雨の中休みか久し振りの日差しが顔を覗かせていた。
日光に照り返されて匂い立つ緑の香りが、微かな風になびいて心地よく吹き込む。
その風に、座布団を二つ折りにしてうつ伏せになってすやすやと眠る大河の髪もわずかになびく。
幸せそうな寝顔がその心地よい風を受けて、より一層艶やかに映った。
そう、それは「可愛い」という類ではなく―――
『美しい』
―――としか形容できない。
「大河」
自分の耳にさえ届かないほどの小さな声で、竜児は囁いた。
呼んだ訳ではない。思わず、零れ落ちた一言。
大河。
今、この瞬間に。
それ以外の何を欲する事があるのか。
全身を、それこそ脚の指の先まで、温かいようなむず痒いような不思議な高揚感が包む。
これは、魔法。
『逢坂大河』という名の、魔法。
その魔法に魅せられてしまえば、抗う事は決してできない。
そっ…と、その頬に手を添える。
「んっ」と一瞬、拒絶の色を覗かせた。でも、直ぐに気持ちよさそうに顔を傾けその手に擦り寄る。
これは、魔法。
『逢坂大河』という名の、魔法。
その魔法に魅せられてしまえば、抗う事は決してできない。
「それ」は更に強く激しく竜児を縛る。
無防備なその寝顔。手を添えたのと反対側の頬。
魅入られるように、ゆっくりと、距離を縮める。己の唇との距離が0になるまで。
「竜児、そろそろ帰るね。」
日も暮れ、辺りはオレンジ色に染まり始めていた。
「おう、送ってくぞ。」
「いい。今日は一人で帰る。」
いつもは大河の家の近くまで送っていくのだが、何か機嫌でも損ねたのか?
とも思ったが、大河の顔はすこぶるご機嫌だ。
「そうか、気をつけてな。」
「うん。あのね、竜児」
大河がちょいちょい、と手招きをして竜児を呼び寄せ、内緒話をするように耳元に囁く。
「えっとね…。」
「?」
「今度はちゃんと起きてる時にしなさい♪」
「へ…」
その言葉の意味を理解したのは、たっぷりと一呼吸間を置いてから、だった。
「!!!!!!!!!」
「ウフフ、フフッ。」
異様に不気味な笑い方をする大河。あの眠っている時の王女様のような寝顔が嘘の様。
「た、大河…。」
「ん〜〜、なに、りゅうじ?」
「そ、その…だ、誰にも…言うなよ?いや、言わないで下さい!」
「却下。」
「だ〜〜〜!!!頼むぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
土下座でもせんばかりの竜児に、大河が放った一言は無情にも。
「却下♪」
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