「……よし」
 竜児はチリ一つ無い自室を見回して満足げに頷く。
 いや、もう元自室と言うべきか。
 布団の無いベッドや空になった本棚を見ていると、やはり少し寂しい気が
「竜児、早くしなさいよ!」
「……あのなあ大河……ちょっとぐらい感傷に浸らせてくれよ」
「な〜にが感傷よ。どうせ土曜には帰ってくるんだし、そもそもその気になればすぐ戻れる距離じゃないの」
「そりゃそうだが……」
「ほら、予定より時間遅れてるんだから」
「その主原因は大河が荷物の整理終わらせてなかったからじゃねえか」
「う、うるさいわね!あんただっていつまでもいつまでも掃除してて……」
「竜ちゃん大河ちゃん、引っ越し業者さんが待ってるよ〜」
 かけられた泰子の声に二人は言い合いを中断、顔を見合わせて。
「お、おう!」「今行くー!」
 
 竜児と大河は玄関で靴を履き、振り返って。
「泰子、くれぐれも刃物と火の扱いには気をつけてな。あんまり無駄遣いするんじゃねえぞ。何かあったらすぐ電話しろよ」
「大丈夫、わかってるよ〜」
「インコちゃんの世話をよろしく頼むぞ」
「頼まれた〜。大河ちゃんも竜ちゃんのことよろしくね〜」
「うん、任せといてやっちゃん」
「どっちかというと、俺が大河の面倒を見る形だと思うんだが……」
「なんですってぇ?」
「ほらほら二人とも、急いで急いで〜」
「おう、それじゃ泰子」「やっちゃん」
「「いってきます」」
 言って二人は手をつなぎ、高須家の扉を開ける。



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