「ほらよ」
そう言いながら高須竜児は私にジュースを差し出した。
角でぶつかって5分。
私達は自販機の前にいた。


『1話if・3』


「これで済ませる気?」
胡乱な目を向けながらもそれを受け取る。
「ぶつかったのはお互い様だろ?それをこっちが詫び入れてんだ。素直にそれで治めとけ」
「・・・仕方ないわね」
その言に、不承不承ながら頷く。
まあ正直、どちらかと言えば前方不注意なのは私のほうだし。
なんたってこの身長だし。
相手の視界に入らないことも重々承知してるし。
だからこそムカつくんだけどさ。
「お前、手乗りタイガーってんだな」
その言葉に、コクリと飲みだしたジュースを根こそぎ吹き出した。
治めた傍から、なにいきなり人の神経逆撫でしてんだこいつ!?
「あん?なに喧嘩売る気?いくらでも買ってやるわよ?」
「違う違う」
睨み付ける目の前、なに苦笑浮かべて手ぇなんか振ってるわけ!?
なんなのこいつ!?
「さっき知り合いに聞いたんだよ、お前の噂」
「・・・」
ああそっか。
またどこぞの親切な輩が、私の敵を一人作り上げたと、そういうことか。
ああ全く皆熱心で頭が下がるわ。
さてじゃあここもお暇しましょうか。




「そうよ。凶暴で手のつけられない問題児が私。一緒にいたらあんたまで変な目で見られるかもよ?さっさと教室帰って、二度と私に関わらないことね」
ああ嫌だ。言ってて自分が嫌になる。
なんでこう周りは私をわかってくれないんだろう?
なんで私を一括りにしようと・・・。
「なんでだ?だってお前問題児じゃね―じゃん?」
・・・え?
なに?なに言ってんのこいつ?
「はあ?いきなり殴った相手つかまえて、あんたなに言ってんの?」
噂聞いたんでしょ?なのに・・・。
「いや・・・お前さっき俺殴ったけど、それ苛ついてただけだろ?」
「え?」
「イライラしてる時に目の前にデカイのがいてぶつかった。だから思わず殴り飛ばした・・・そんなとこだろ?」
「な・・・」
なんで?なんでこいつわかったの?
絶句してる私の目の前、目付きの悪い笑顔が言ってのける。
「わかるだろそりゃ見てれば」
お前終始イライラしっぱなしだし。
聞きようによってはすごく失礼な事を言いながら、こいつはそれでも笑顔を深くした。
ポカンと呆けてると、頭にポンと手を置かれた。
温かくて、大きな手。
なんだか泣きたくなるような。
「何にそんなに苛ついてるかわかんねーけどさ、なんなら相談ぐらい乗るぜ?」
・・・なんなんだろう?
頭が混乱する。
こいつはさっき会ったばかり。しかも初対面は最悪。
なのにこいつはこんなにも優しく・・・優しい?
優しい・・・優しいのは・・・。
「・・・優しくしないで」
「え?」
思わず口をついた言葉。
驚いたような奴の顔。
いけないって思った。
でもそれは止まらない。
「私に優しくしないで・・・」
「え?ど、どうしたんだ逢・・・」
「私に触るなー!!」
差し伸べられた手を、力任せに叩き落す。
気がつけば怒号を上げていた。
頭の中が真っ赤だ。
息切れがして動機が激しい。
ああまただ。
またコレがきた。
私にはどうにもできない激情。
だから、その激しさを口から吐き出した。
痛みと共に。
「私に触れるな!私に関わるな!私に優しくするな!!どうせ・・・どうせ離れていくなら・・・っ!」
「あ、逢坂・・・?」
名前を呼ばないで!!
流れ出した涙を自覚して駆け出した。
後ろから、また名前を呼ばれた気がしたが、気にせず走りつづけた。
あいつの傷ついたような顔が脳裏に浮かんで、胸がチクンと痛んだ。
でも・・・。

ドウセアイツモホカノヤツラトイッショダヨ・・・。

どこからか聞こえてきた声に、もう一度私は涙した。


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